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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)1676号 判決

控訴人 金沢徹

右訴訟代理人弁護士 衣里五郎

被控訴人 破産者東京ランチャンネル株式会社破産管財人 西迪雄

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人の右請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に附加するほか、原判決事実欄記載のとおりであるから、これを引用する。

(被控訴人の陳述)

一、控訴人が取立てた金額とその債務者は甲第三号証の「カネハ(金沢)取立債権額」と題する書面記載のとおりであって、控訴人は破産会社の東京ランチヤンネル株式会社(以下東京ランチヤンネルという)の委任を受けて金銭の取立をしたのであるから、被控訴人は控訴人に対し第一次的に委任事務の処理として取立てた金銭とこれに対する損害金の支払を求め、かりに右委任がなかったとすれば、控訴人は事務管理として前記金銭を取立てたものであるから、第二次的に右事務管理により取立てた金銭とこれに対する損害金の支払を求める。

二、後記控訴人の主張事実中、東京ランチヤンネルの債権を取立てたのはカネハ化学工業株式会社(以下カネハ化学という)であって、控訴人ではないとの事実は否認し、東京ランチヤンネルの支払停止後開催された債権者集会に控訴人がカネハ化学の代表者として出席した事実、同会社が東京ランチヤンネルに対し金一八七一万三五〇六円の債権を有したとの事実は不知、その余の事実は争うと述べた。

(控訴人の陳述)

カネハ化学は東京ランチヤンネルに対し金一八七一万三五〇六円の売掛金債権を有していたところ、東京ランチヤンネルの支払停止後の昭和四三年七月上旬にその債権者集会が開かれたので、控訴人はカネハ化学の代表取締役としてこれに出席した。当時東京ランチヤンネルの債権者らはほしいままにそれぞれの債権確保を画策したから、カネハ化学は東京ランチヤンネルに対する前記債権確保のために同会社の債権の回収につとめた。従って被控訴人主張の東京ランチヤンネルの債権を取立てたのはカネハ化学であって、同会社の従業員大川石雄が右債権の取立、集金に当ったものであり、控訴人が個人として委任をうけ、又は事務管理として取立てたり、取立てた金銭を保管したものではない。また、カネハ化学が集金した金額は金二五七万五七八六円ではなく、金一三九万一九〇〇円に過ぎない(乙第一号証の帳簿のうち昭和四三年八月一三日の欄参照)。その余は訴外のヤシマゴムという会社が集金したものである。

(証拠)〈省略〉

理由

一、東京ランチヤンネルが昭和四三年六月二六日支払を停止し、同年八月二一日破産宣告を受け、被控訴人がその破産管財人に選任されたこと、控訴人が訴外カネハ化学工業株式会社(カネハ化学と略称する)の代表取締役であったことは当事者間に争がない。

二、〈証拠〉を綜合すると、次の各事実が認められる。

1.東京ランチヤンネルは、株式会社大阪ランチヤンネル製作所のいわゆる子会社であるが、実質的には同会社の一部門としてその東京における営業を担当していた。右の株式会社大阪ランチヤンネル製作所(以下大阪ランチャンネルという)も東京ランチヤンネルと同じ日に支払を停止し破産宣告をうけた。控訴人が代表取締役の地位にあるカネハ化学は、大阪ランチヤンネルおよび東京ランチヤンネルに自動車のマツトを納入し、両会社に対しその破産の当時売掛代金として合計一八七〇万円位の債権をもっていた。

2.大阪ランチヤンネルは、東京ランチヤンネルの分も含めて当時一億数千万円の負債があり、前記支払停止のため、これらの債権者が集って取付騒ぎを生じたが、同会社の代表取締役村井得衛をはじめ会社の幹部(大阪ランチヤンネルの役員が、すべて東京ランチヤンネルの役員をも兼ねていた)は姿を隠してしまっていてどうすることもできないので、右債権者らはその債権の回収のため大阪ランチヤンネルおよび東京ランチヤンネルの有する債権を取立てることとし、その実行のため「債権者委員会」を組織し、委員長に債権者の一員である大崎ビニール株式会社代表者の前田行雄を選任し、その他の委員として債権者である各会社の代表者らを選任し、これらの委員をして大阪ランチヤンネルおよび東京ランチヤンネルの取引先(同会社らに対する債権者)の地区毎に分担を定め、その債権の取立に当らせることとし、カネハ化学の代表者として出席していた控訴人も委員の一員として主として東京、仙台および東北地方における債権の取立を担当することとなった。右の「債権者委員会」は、昭和四三年六月下旬から同年七月中旬頃にかけて数回開かれたが、その終りの回の頃には、東京ランチヤンネルおよび大阪ランチヤンネルの代表取締役をのぞく、その他の取締役および顧問弁護士の豊蔵亮が出席し、これらの者は、「債権者委員会」の債権取立に関する右のとりきめに同意した。しかし、右の「債権者委員会」なるものは名のみで、統制のある組織体の実質をもたず、結局各債権者がてんでに各自の債権回収のため大阪ランチヤンネルおよび東京ランチヤンネルの債権の取立に奔走することになった。

3.当時大阪ランチヤンネルおよび東京ランチヤンネルの各社印および代表者印は、同会社らの顧問弁護士の豊蔵亮が預って保管していたが、控訴人は昭和四三年七月中旬頃前田行雄らを通じて同弁護士から右会社印および代表者印の交付をうけ、カネハ化学の社員の大川石雄に命じて、これらの印を押した受取証書を持参させて、大阪ランチヤンネルおよび東京ランチヤンネルの東京、仙台およびその他の東北地方の取引先に対する債権の取立をさせた。このようにして大川石雄は、前記破産宣告までの間に、東京地区において東京ランチヤンネルの大野産業株式会社他約一〇社に対する債権の取立をして同会社らから手形小切手などで金額合計二五七万五七八六円を受領し、仙台およびその他の東北地方においても大阪ランチヤンネルの債権の取立をして約六四〇万円の金員を受領し、これらの取立金をすべてカネハ化学の経理に入金し、カネハ化学においては、これを大阪ランチヤンネルおよび東京ランチヤンネルに対する債権の弁済として処理した。前記「債権者委員会」の他の委員も各自大阪ランチヤンネルの債権の取立をしたが、これらの取立金を右委員会もしくは委員長に提出した者はなく、すべて自己の大阪ランチヤンネルに対する債権への入金として処理した。

三、被控訴人は、控訴人が東京ランチヤンネルの債権の取立をしたのは、カネハ化学の代表者としてではなく、個人の資格で、破産会社からその委任をうけたか、もしくは、同じく個人の資格で破産会社の事務の管理としてしたものであると主張する。しかし、前記認定のように、破産会社(大阪ランチヤンネルおよび東京ランチヤンネル)が支払を停止し、その債権者らが集会を開いた当時、同会社の代表取締役は姿をかくしていたのであって、破産会社の側の者としてこれらの債権者と折衝をした者は、証拠上、代表取締役をのぞくその他の取締役および同会社顧問弁護士の豊蔵亮であるが、これらの者が特に個人としての控訴人に委任する趣旨において、控訴人とそのような委任契約を結んだ事実については証拠がなく、右の債権者委員会のとりきめが、特に個人としての控訴人をして債権の取立をなさしめる趣旨のものである点についても、原審証人豊蔵亮、同津田禎三の各証言および原審における被控訴人本人の供述によるもこれを確認することができず、他にこれを証するに足る証拠がない。のみならず、前記認定の事実と原審および当審における控訴人本人の各供述、当審証人大川石雄、同松永富子の各証言を綜合すると、控訴人としては、控訴人が代表するカネハ化学が破産会社の債権の取立を委ねられたものと信じていたこと、その債権の取立をし、この取立金を受領したものはカネハ化学であることが認められる。これに反し、右債権取立金を受領した者が控訴人個人であることについては、証拠が全く存在しない。

四、以上のとおり、東京ランチヤンネルの債権の取立は、控訴人が個人として同会社から委任をうけたか、もしくは、控訴人が同じく個人の資格で同会社の事務管理としてしたとの被控訴人の主張は、いずれも採用しえないので、これを前提とする被控訴人の本訴請求は失当として排斥を免れない。

五、よって、原判決中控訴人敗訴部分を取消し、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について、民訴法九六条八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松永信和 裁判官 長利正己 小木曽競)

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